或る阿呆のナマステ

それこそひそやかに

仮寓

編んでみたらサイズが自分の体に合わない草庵、これを打ち破りまた作るエネルギーが欠如しているせいで僕は今日もワンカップを飲んでへらへらしている。仮ねぐらには体が入らないから、最寄のコンビニ前で。

小向美奈子トレーディングカードに乳首がもろに出てしまっているものが全国に流通している。


僕は結構前から、なにか途方も無い他人との差を痛感するとき、頭の中でフルヴォリュームでカーシヴの「Am I not yours?」のサビが流れるという条件反射を起こすようになっていた。

深夜。最も食欲沸き立つこの時間帯は僕をして新たな草庵を編み出すエネルギーをくれる。食欲のおかげで労働できる。朝方には新しい仮ねぐらが完成していた。今度のサイズは大きすぎた。しょうがないのでテレビを買った。しかし電気を引いていないので僕は終日自転車発電を行う。テレビを見ながらエクササイズができるなんて。
疲れてきた。テレビも見飽きた。足を止めようとしたその時に彼女はブラウン管の中に顔を出した。乳首を全国に流布させても笑っていられる彼女のタフ。そのタフに少しでも近づきたかったので僕はまた漕ぎ出した。
刹那母親が「ごはんできたよ」と入ってきた。そしてむせた。僕の部屋は真っ白だ。比喩でもなんでもなく、煙草だ。僕はチェーンスモーカーだ。語意とは違う。煙草に鎖でつながれた喫煙者だ。
僕は深夜にしか食欲が起こらないので、「あーいーや、まだ」と母親の顔を見ずに答えた。生理中の母親は何も言わずに草庵を出て行った。ドアをつけておかなくてよかった。僕は怒った人間がドアを閉めるときの音がとても苦手だ。怒った人間がドアを開けて入ってきたときよりも苦手だ。
小向美奈子は消えていた。しかし僕は漕ぎ出した。とりもなおさず人生なのだ。