或る阿呆のナマステ

それこそひそやかに

母親が職場の同僚の子供に「パトカー」のことを「柳沢慎吾」と教えてしまったのは一年前。パトカー自体は柳沢慎吾のネタレパートリには含まれないのに。
それ以来幼く純朴なその子はパトカーを見るとたどたどしい呂律でだがしかし確信を持って勢いよく
「ぁ、柳沢慎吾だ!」
と指差しながら喜ぶ。

「あれはね、本当はパトカーって言うんだよ。君がこの先ずっとあれを柳沢慎吾と呼んでいたら、もし本当に柳沢慎吾が来たときに誰も信じてくれないよ。オオカミ少年のおはなしは聞いたことがあるだろう?君はその予備軍なんだよ」

と諭そうかどうか、逡巡で貴重な日曜が暮れた。