或る阿呆のナマステ

それこそひそやかに

日付の変わりしな、帰り道いつもの廃屋を通りすがり、その家の朽ちかけな壁に、六本足の黒光りの張り付いているのを確認した。
アンテナか。虫かと思ったよ。化け物みたいなね。
あれは動かないだけで、暗くてよく見えなかっただけで本当は虫でもいいんだろうなあ。どっちでも俺には関係が無いなあ。関係のあることだけに執着したいなあ。
やはりその六本足は虫だった。俺の頭めがけて跳んできた。ああくそ俺に関係しやがってこの野郎めんどうくせえ。持っていた原付の鍵で応戦した。追っ払った。跳んでいった。
煙草がまずい。体調が悪いようだ。
こんな正夢は見たくなかったものだ。夢にうなされ現実で同じにうなされこれでは夢が夢の機能を果たさないじゃないか。正夢なんてものは当たって初めて正夢といえるんであってそんなの宝くじと同じじゃねえか。畜生ほとんどごみ同然だ。
芳しくない機嫌で帰宅して部屋に篭って、あれがやっぱりアンテナだったら少し面白かったなあ、などと極めてつまらないことを考えて自己嫌悪の蟻地獄に陥没。別に関係してるものの正体がなんであれどうでもいいなあ。面白いほうに解釈して勝手に楽しんでやろう。
あれは北が開発したスパイ兵器だ。日本全国に既にばら撒かれている。そいつらは人の頭に取り付き同化し、卑猥な言葉を日本語で口走らせるのだ。その刹那、卑猥な言葉を口にした人間は死ぬのだ。俺は原付の鍵でそれを追い払い事無きを得た。
俺はなぜか卑猥な言葉を口走ってみたくなった。なんだか、あれにとり付かれなくても、そういえば卑猥な言葉を言ったら確か人は死んだような気がするなあ。
なぜだか、それを決してしてはならないと思えば、またなぜか口にしてみたくなるのだ。……ああ卑猥な言葉を言いたい!言いたくて仕方が無い!なんてなんてもどかしいんだ!言わせてくれ!喉も裂けんばかりに両親を目覚めさせんばかりに言わせてくれ!ああ言うぞ!!よし言う!!!やめろ死ぬぞ馬鹿!!!!!!!うおぉーああー


俺は毛布にくるまり口をつぐみ、おののきながら朝を待たなければならない。頭の中は卑猥なことでいっぱいだ。下腹部が怒張し続けている。寝付けるはずも無い。長い夜になりそうだ。夢を見ないですみそうだ。