或る阿呆のナマステ

それこそひそやかに

電車

向かって左から、お年を召したおばあちゃんと、トートバックを股に挟み電話している薄着で茶髪の若い女性と、頭頂部に寂しい特徴のあるスーツのおっさんで埋まる優先席。それを前にして私は吊り革をつかんで立っていた。と、どうやら背後で人の立つ気配。
駅に停車し、降りられていったご老人。
座席は空いたが、どうせ次の駅で自分も降りるのだし、優先席だしこのまま立っておこうか、とぼんやり考えていると、目の前に座るおばあちゃんが突然自分に向かって
「あいてますよ」
と声をかけてくれた。
「いえ、次で降りるから大丈夫ですよ。すいません」




次の駅に停車し、自分は電車を降りて用足しに便所へ入った。
いわゆる社会の窓が開いていたことに気づいた。



もしおばあさんのあの言葉がそれを指しての
「開いてますよ」
であったとしたら、座席を指しての
「空いてますよ」
だと勘違いをした自分の
「いえ、次で降りるから大丈夫ですよ。すいません」
という返事は理解不能であってなんか微妙な気持ちになった。
そう言えばおばあさんは心なしか当惑しているように見えた。
ちょうどおばあさんの目線からしてそれなりの不快感もあったかもしれない。ごめんおばあちゃん