「過去はいつでも晴天だ」
と言ったのは安吾だ。「私は女よりも海を抱きしめていたい」「生きよ堕ちよ。それでも堕ち切れぬのが人間だ」などと、はなから諦めている人間がしかし顧みれば翳りのない青空が真っ先に現出するらしい。
戦時中に東京に居座り物見の心地で空襲を見遣り、焼け跡を死体を見遣り、その心中たるや?それも未来には晴天。信じられない。自分には、安吾は気狂いか世界一のハッタリ屋のどちらかとしか思えない。あるいはハッタリを信じ切る気狂いなのか。とここまで考えて、考えてみたらそうか、過去はいつでも晴天だ。呑気なもんだ台風一過の晴天だけ覚えている。頭が弱っているのだろうか。
では傘は未来の、もしくは現在のために使われるべき道具なんだろうか。天気予報も外れますしね。相合傘とかね、したいですよね。それもあとから振り返れば晴天。どうやら写真に傘は写らないらしい。そもそも雨が降ったらデートはしない。部屋で腐る。そんな日のことは覚えていない。
しかしやはり諦めながら生きていかないとこんな風には考えない。
ああ原付にキー挿しっぱなしで駅前に置いてきた。ぱくられたろうなあ。午前0時に無事原付は変わらずそこにあった、ああ無事なる一日。快晴也哉。そんな今日だった。